ひゃくえむ

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最初は何にしようか迷ったけれど「ひゃくえむ」について書きたいと思う。

そもそも私は才能が題材になっている作品が大好きだ。「ピンポン」しかり天才の葛藤・孤独の描写が堪らない(当然その後のカタルシスありきの話しだが)

さて、「ひゃくえむ」だが内容としては100m走の天才である主人公トガシは小学生の頃小宮と言う気の小さな少年と出会う。トガシは彼の面倒を見て走り方を教えてあげるが次第に彼の不気味と言えるほどの走る事への執着に気づく。その後2人は別れるのだが・・・。

前述したがこの漫画は才能が題材になっている。諦めた天才・自分を疑わなかった天才・信じるしかなかった天才。

ただ天才たちは結局諦めない。彼らを支えるのは応援してくれる人ではなくかつて天才であったと言う自負のみだ。人の為ではなくただ自分の為に走る。天才というのは自分のために諦められない凄まじいナルシシズムとそれを実現できる能力を持っている人を指すのかもしれない。

とりわけ作者はそこを描くのがあまりにも上手い。そしてとにかく熱い。もしかしたら漫画にはヒロインなんていらないのかもしれない。ただ自分の才能をこよなく愛する者が集まって、泥臭く自分に執着する自分を愛して嫌ってまた愛してただそれだけでいいのかもしれない。

対人関係がなくとも自分との葛藤で随分と深くまで描けるものだと改めて思い知らされた。

さて、ここまで内容にはほとんど触れていないがネタバレなく私の思う魅力を書き連ねるのが目的なので許してほしい。

作者の短編で「佳作」と言う作品があるがこれはさらに明確に才能を描いているのでこれも合わせて読んでほしい。というより今読むなら新装版以外選択肢にないので読む事になるとは思うが。もちろん「チ。」 もおすすめだ。魚豊先生の次回作に期待して今回は終わろうと思う。